デスクから立ち上がった瞬間、足の付け根がつまる。
歩き出して数歩で、すっと軽くなる。
だから、そのままにしている方は多いと思います。
あぐらがかきにくい。靴下がはきづらい。脚を組んだとき、片方だけ引っかかる。
そのうち、股関節が硬いだけやろ、で片づけてしまう。
先に結論から。
座っているあいだ、股関節は「面」ではなく「一点」で体重を受けているんです。
順番に見ていきますね。
その「詰まり」は、股関節で何が起きている状態か
股関節は、球の関節。
骨盤の側面にあるお椀のようなくぼみに、太ももの骨の先端がすっぽりはまっている。
くぼみのほうが臼蓋(きゅうがい)、はまっている球が大腿骨頭(だいたいこっとう)。
形としては肩と同じ球の関節ですが、役割は違います。肩は動く担当で、股関節は体重を支える担当。
だから股関節は、はまりが深い。
もう一つ、受け皿を深くしているものがあって。
臼蓋のふちには、関節唇(かんせつしん)という軟骨のリングがついている。お椀の縁にゴムのパッキンを回したような形で、これがはまりを深くして、関節の中のおさまりを保つ役目です。
覚えておいていただきたいのは、この縁も体重を受ける側にいる、ということ。
そして深くはまっている分、当たり方が姿勢で変わります。
立っているとき、骨頭は臼蓋の真ん中あたりに、広い面として当たっている。
体重は広く散っていて、一か所に集まりません。
この当たり方が崩れたとき、詰まりという形で出てくる。
なぜ、座っていると詰まっていくのか
90度に曲げると、当たる場所が変わります
椅子に座ると、股関節はおよそ90度に曲がる。
このとき骨頭は、臼蓋の中央ではなく前の上のほうに寄っています。
そして、当たっている面積が減る。
圧力というのは、かかっている重さを、受けている面積で割ったもの。
同じ体重でも、受ける面積が狭くなれば、その一点にかかる圧は上がる。
ここは、ピンヒールを思い浮かべると分かりやすいと思います。
同じ人が履いても、スニーカーとピンヒールとでは、床が受ける圧がまるで違いますよね。体重は変わっていないのに、接している面積が変わるから。
座っているあいだ、それに近いことが股関節の中で起きているんです。
臼蓋の前の上のふち。さきほどの関節唇でいえば、その前側にあたる場所です。そこに体重が集まった状態が、何時間も続く。
立ち上がったときの詰まる感じが、脚の付け根の前側に出やすいのは、このためなんですよね。
そこから、連鎖して起きること
曲げたままの時間が続くと、変わっていくものが2つあります。
ひとつは、前側。
股関節の前を包んでいる袋(関節包)と、その前を通る腸腰筋(ちょうようきん)が、短いまま落ち着く。
腸腰筋は、腰の骨とお腹の奥から始まって骨盤を通り、太ももの内側の付け根につく筋肉。股関節を前に曲げるときの主役です。
座っているあいだ、この筋肉はずっと縮んだ側にいる。
もうひとつは、後ろ側。
お尻の大殿筋(だいでんきん)は、股関節を後ろへ伸ばす筋肉ですが、座っているあいだは出番がありません。
使わない時間が長くなると、いざというときの反応が鈍くなる。力が落ちるというより、出番を忘れるという感じに近いです。
休んでいるのは、大殿筋だけではありません。
お尻の上のほうにある中殿筋(ちゅうでんきん)は、片脚立ちになったときに骨盤が横へ落ちないよう、横から支えている筋肉。
歩いているあいだ、人は片脚立ちをくり返している。座っているあいだは、この筋肉にも出番がない。
支えが弱いまま歩くと、一歩ごとに股関節へ横向きの力が加わる。前に集まっていた圧に、それが上乗せされていきます。
さて、この状態で立ち上がるとどうなるか。
股関節を伸ばす必要がある。ところが前は短くなっていて、後ろは出遅れている。
伸ばしきれない分は、骨盤や腰が代わりに動く。そして股関節の前には、また圧がかかる。
詰まるから動かさない。動かさないから、もっと詰まる。
長く付き合っている方ほど、この輪の中にいることが多いように思います。
なお、歩き出して数歩で軽くなるのは、動いているうちに骨頭の当たる場所が戻り、まわりの筋肉も働きはじめるから。楽になったこと自体は、悪い話ではありません。
「股関節が硬いだけ」とよく混同される
ここでよく出てくるのが、「硬いからストレッチをしましょう」という話。
間違いではありません。硬ければ動く範囲は狭くなる。
ただ、この「硬い」には2種類あって。
ひとつは、誰かに伸ばしてもらったときに、どこまで動くか。
もうひとつは、自分の力で、どこまで動かせるか。
この2つは、そろっているとはかぎりません。
開脚は深くできるのに、片脚で立つとぐらつく。あぐらは組めるのに、階段がつらい。そういうことが起こるんです。
普段お伝えしているのは、こういう言い方で。
誰かに伸ばしてもらって上がる足と、自分で上げられる足は、別ものですよ。
大事なのは、自分の力でその角度までコントロールできること。柔らかいことより、動かせることのほうなんですよね。
そして、伸ばす側だけを頑張ると、少し困ったことも起きます。
関節を支えている袋や靭帯は、引っぱられ続けるとゆるむ。ゆるんだ分、骨頭のおさまりは浅くなる。
動かす力が足りないまま範囲だけ広げると、支えのほうが薄くなるということです。
順番としては、動く範囲を取り戻して、その範囲で使えるようにする。この並びになります。
自分で確かめられること
何かを判断するためのものではありません。今の状態を知る目安として見てください。
まず、前がどれくらい短くなっているか。
仰向けに寝て、片方の膝を両手で胸のほうへ引き寄せる。
このとき、反対側の脚はどうなっていますか。
床についたまま伸びていれば、そのまま。太ももが浮いてくる、膝が曲がってくる。そういうときは、前側が短くなっているのかもしれません。
左右でくらべてみてください。
次に、支える側。
鏡の前で、片脚立ちに。手すりや壁に指を添えてかまいません。
浮かせたほうのお尻が、ストンと下に落ちませんか。体が横に大きく傾きませんか。
骨盤を横で支えているのは、さきほど出てきた中殿筋。ここが働けていないと、この形が出やすくなります。
もう一つ。
椅子に座って、片方の足首を反対の膝の上に乗せる。数字の4のような形。
膝が下に落ちるか、それとも高いところで止まるか。左右で高さが違いませんか。
どれも、良い悪いを決めるものではなくて、左右の差に気づくためのものです。痛みが出るところまではやらないでくださいね。
家でできること(無理をしない範囲で)
やることは3つ。圧を抜く、前を伸ばす、お尻を思い出す。
まず、圧を抜く。
いちばん効くのは、立つことです。30分に一度、少しのあいだ立つ。
同じ場所に集まっていた圧が、そこでいったん散ります。長いストレッチより、短くても回数のほうが意味がある。
トイレに行く、飲み物を取りに行く。それで十分です。
次に、前を伸ばす。
床に片膝をついて、もう一方の足を前に出す。うしろ脚のお尻に軽く力を入れて、骨盤を少し立てる。
そのまま、体をまっすぐ前へ送ります。
うしろ脚の付け根が伸びる感じが出たら、そこで止めて20秒ほど。腰を反らせて伸ばそうとしないでください。それだと腰に逃げるので。
最後に、お尻を思い出す。
仰向けで膝を立てて、かかとで床を押しながらお尻を持ち上げる。上げきったところで2秒止めて、ゆっくり下ろします。
10回ほどで十分。腰ではなく、お尻に力が入っている感じを探してみてください。
立ち上がるときも同じで、かかとで床を押すと、お尻が使いやすくなる。
なお、痛みが強いときや、体重をかけるのがつらいときは、無理をせず専門機関にご相談ください。
医療機関を考えた方がよいサイン
股関節の詰まりとして感じていても、関節そのものの状態が関係している場合があります。
次のようなときは、一度、整形外科で相談してみてください。
- 足の付け根が痛くて、体重をかけられない
- 靴下がはけない、足の爪が切れないなど、動く範囲が目に見えて狭くなってきた
- 脚の長さが左右で違う気がする。歩き方が変わったと言われた
- じっとしていても痛む。夜、痛みで目が覚める
- 股関節が腫れている。熱をもっている。発熱をともなう
- 転んだ、ひねったあとから始まった
- お尻から脚のほうへ、しびれが広がっていく
- 子どものころに股関節で治療を受けたことがある
脅かしたいわけではありません。
股関節の詰まりの多くは、ここまで書いてきたような積み重ねから起きています。
ただ、上のような形で出ているときは、それだけでは説明がつかないことがあって。
相談に行くときは、いつから/どの動きで/どのあたりがをメモして持っていくと話が早い。
立ち上がりなのか、歩きはじめなのか、靴下をはくときなのか。動作の名前まで書けると、なお伝わりやすいです。
まとめ
長くなったので、まとめます。
長く座ったあとに股関節の前が詰まるのは、曲げた姿勢だと骨頭の当たる面積が減って、前の上のふちに圧が集まるからでした。
その時間が続くと、前は短くなり、後ろのお尻は出番を忘れる。だから立ち上がりで、また前に圧がかかる。
そして「硬い」には、伸ばしてもらって動く範囲と、自分で動かせる範囲の2つがありました。増やしたいのは後者のほう。
やることは、圧を抜く、前を伸ばす、お尻を思い出す。この3つでした。
まずは今日、30分に一度立つところから始めてみてください。それだけでも、集まっていた圧は散ります。


