肘の外側が痛い。
物を持ち上げるとき、ドアノブを回すとき、ズキッとくる。
調べてみると「テニス肘」と出てくる。でも、テニスなんてしたことがない。
そこで話が止まってしまう方は多いと思います。
先に結論から。
問題は、力を入れたことではありません。力を抜く時間がなかったこと。
順番に見ていきますね。
その肘の痛みは、体で何が起きている状態か
肘の外側に、骨のでっぱりがあります。
外側上顆(がいそくじょうか)と呼ばれる部分。ここに、指や手首を反らす筋肉が何本もまとめて付いている。
そのなかで主役になるのが、短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)。名前は長いですが、やっていることは単純です。
手首を反らす。それだけ。
この筋肉には、都合の悪い事情が2つあって。
ひとつは、場所。
前腕の筋肉は何層にも重なっていて、この筋肉は深いところにいる。上にも横にも、別の筋肉が乗っています。
まわりが硬くなると、深層にいるこの筋肉は、サンドイッチのように挟まれる。
圧の逃げ場がないんです。
普段お伝えするときは、こう言っています。
満員電車で、身動きが取れなくなっている人。
自分は何も悪いことをしていないのに、まわりに押されて動けない。そういう状態に近い。
もうひとつは、血流。
この筋肉が骨につく部分は、もともと血のめぐりが乏しい場所です。
血流は、修理に来る道でもある。道が細ければ、小さな傷みが起きても回復に時間がかかる。
だから、こじれやすい。
痛みが長く続きやすいのは、根性の問題ではなく、この2つの事情があるからなんですよね。
なぜ、そこに負担が集まるのか
力を抜く時間が、ない
ここでテニスの話に戻ります。
テニス肘という名前がついているのに、実はプロの選手にはあまり出ません。多いのは、初級から中級の人。
なぜか。
力の入れ方と、抜き方が違うからです。
プロは、ボールを打つ瞬間だけ力が入る。それ以外はすぐに抜ける。筋肉が働く時間は、ごく短いんです。
初級の人は、ラケットをずっと強く握っている。プレー中、力が抜ける瞬間がほとんどない。
一回あたりの力は、プロのほうが強い。それでも痛めるのは、握りっぱなしのほうなんです。
筋肉は、休めないことのほうがこたえる。
ここまで読んで、思い当たりませんか。
マウスを持つ手。スマホを支える指。フライパンの柄。買い物袋。ハサミ。ドライヤー。赤ちゃんを抱く腕。
どれも、強く握っているわけではありません。でも、握りっぱなし。
テニスをしていなくても、条件はそろっている。 むしろ日常のほうが、時間が長いぶん条件はきついかもしれません。
そこから、連鎖して起きること
もう一つ、負担が集まる道があって。
前腕には、手のひらを上に返す動きと、下に返す動きがある。回外と回内です。
このうち手のひらを下に返す動きが狭くなっていると、困ったことが起きる。
たとえばキーボード。手のひらは下を向いていますよね。
前腕そのもので返しきれない分は、どこかが埋めることになる。埋めるのは、手首です。
手首を余計に反らせ、小指側に寄せて、角度をつくる。
そうやってつくった角度のぶん、伸筋群には最初から張力がかかった状態になる。
まだ何も持っていないのに、もう引っぱられている。
その状態でマウスを握る。ペットボトルを開ける。買い物袋を持つ。
上乗せです。
さらに、肘は肩と手首にはさまれた関節でもあります。
肩が前に入って内側にねじれていると、その先の前腕は、はじめから回りにくい位置で仕事を始めることになる。
肘だけを見ても答えが出ないことがあるのは、こういうつながりがあるからなんです。
痛みが出ているのは、いちばん先に音を上げたところ。そこが原因の場所とはかぎりません。
「使いすぎだから、休めばいい」とよく混同される
肘が痛いと言うと、まず出てくるのが「休みましょう」という話。
間違いではありません。負担が積み重なっているなら、減らすのは正しい。
ただ、これだけでは説明がつかないことがあって。
休んで一度おさまったのに、使いはじめるとすぐ戻る。
心当たりのある方は多いと思います。
休むことで減るのは、その期間の負担です。握りっぱなしの癖も、前腕の回りにくさも、肩の位置も、休んでいるあいだは変わりません。
だから、戻ったときに同じ条件が待っている。
もう一つ、逆の話もあって。
「鍛えれば解決する」という考え方です。
これも一面では合っています。ただ、圧が逃げない場所にいる筋肉を、その状態のまま強く使うと、挟まれたまま働かせることになる。
順番としては、まわりの圧を抜いて、力を抜けるようにしてから。それから使う量を考えるほうが、遠回りになりません。
自分で確かめられること
何かを判断するためのものではありません。今の状態を知る目安として見てください。痛みが出るところまではやらないでくださいね。
まず、手のひらを下に向けて持ち上げる。
500mlのペットボトルを、テーブルに置く。
手のひらを下に向けたまま、上からつかんで、ゆっくり持ち上げてみてください。ひじは伸ばしぎみで。
肘の外側に、ズキッとくる感じはありますか。
次に、手のひらを上に向けて同じように持ち上げてみる。
下向きのときだけつらい。 そういう出方をすることがあります。
次に、前腕がどこまで返るか。
ひじを体の横につけて、90度に曲げる。ひじを体から離さないまま、手のひらを上に向けて、次に下に向ける。
左右で、返る角度は同じですか。片方だけ途中で止まりませんか。
最後に、押してみる。
肘の外側のでっぱりから、指2本ぶんくらい手首側。そこを指の腹で軽く押してみてください。
反対側とくらべて、感じ方が違う。あるいは手首のほうへ響く。そういうときは、そこに負担が寄っていることがあります。
強く押さないでください。確かめるだけで十分です。
家でできること(無理をしない範囲で)
やることは3つ。力を抜く、前腕を返す、まわりの圧を抜く。
まず、力を抜く合図をつくります。
さきほど書いたとおり、こたえるのは強さより長さでした。だから、抜く瞬間を意図的に挟みます。
マウスから手を離す。指を大きく開いて、5秒。それから戻す。
一時間に一度でも構いません。握りっぱなしの時間を切るのが目的です。
持ち方も変えてみてください。荷物は指先でぶら下げず、腕全体で抱える。カバンは持ち手を握るより、肩にかける。
次に、前腕を返す。
ひじを体の横につけて、90度に曲げます。ひじを離さないまま、手のひらを上へ、下へ、ゆっくり返す。
10往復ほど。反動をつけないでください。
ひじが体から離れると、肩でごまかす形になります。脇を軽く締めたまま返すのがポイントです。
最後に、まわりの圧を抜く。
痛いところは押さないでください。深いところにいる筋肉を直接ほぐそうとするのは、逆効果になることがあります。
そのかわり、その手前を通します。
肘の外側から手首に向かって、前腕の外側を、手のひらでゆっくりさすってください。押し込まず、皮膚を動かす程度。20秒ほど。
まわりがゆるむと、挟まれている側の圧も抜けやすくなる。
そのあと、肩も一度回しておくといいと思います。上流が動くと、前腕の始まる位置が変わるので。
なお、痛みが強いときやしびれがあるときは、無理をせず専門機関にご相談ください。
医療機関を考えた方がよいサイン
肘や手首の痛みとして感じていても、別のことが関係している場合があります。
次のようなときは、一度、整形外科で相談してみてください。
- 手や指にしびれがある。感覚が鈍い。夜中にしびれで目が覚める
- 指に力が入らない。物を落とすことが増えた
- 肘が途中で引っかかる。伸ばしきれない、曲げきれない
- 肘や手首が腫れている。熱をもっている。赤くなっている
- 転んで手をついたあとから始まった。ぶつけたあとから痛い
- じっとしていても強く痛む。夜、痛みで目が覚める
- 発熱をともなっている
- 手首の付け根が腫れて、力を入れられない
脅かしたいわけではありません。
肘の外側の痛みの多くは、ここまで書いてきたような積み重ねから起きています。
ただ、上のような形で出ているときは、それだけでは説明がつかないことがあって。
とくにしびれは、筋肉ではなく神経の通り道の話になることがあります。手のどの指に出ているかで、見るところが変わってくるので。
相談に行くときは、いつから/どの動きで/どのあたりがをメモして持っていくと話が早い。
物を持ち上げるときなのか、ドアノブを回すときなのか、キーボードを打っているときなのか。動作の名前まで書けると、なお伝わりやすいです。
まとめ
長くなったので、まとめます。
肘の外側で主役になっている筋肉は、前腕の深いところにいて、まわりに挟まれています。血のめぐりも乏しい場所。だから、こじれやすい。
そこに負担が集まるのは、強く握ったからではなく、握りっぱなしで力を抜く時間がなかったからでした。テニスをしていなくても、条件はそろっています。
前腕が返りにくいと、その分を手首が埋める。肩が内へ入っていると、前腕は不利な位置から始まる。肘だけの話では終わらないんです。
やることは、力を抜く、前腕を返す、まわりの圧を抜く。この3つ。
まずは今日、一時間に一度、マウスから手を離して指を大きく開くところから始めてみてください。
握っていた時間を切る。それだけでも、条件は変わります。


