階段を下りるとき。椅子から立ち上がった、その一歩目。
膝の内側や、お皿のあたりに、ズキッとくる。
しばらく歩いているとましになるので、そのまま何年も付き合っている方は多い。年やから仕方ない、と片づけかけている方もいるかもしれません。
先に結論から。
膝は、最後まで伸びきったときに一番安定する関節です。
その最後のわずかな角度が残ったままだと、支える仕事を筋肉が肩代わりすることになる。
順番に見ていきますね。
その膝の痛みは、体で何が起きている状態か
膝は、曲げ伸ばしだけをする蝶番だと思われがち。
ドアの丁番のように、一方向へパタパタ動くだけの関節。
でも実際は、少しちがうんです。
膝がまっすぐ伸びきると、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)が接する面積が増える。
同時に、まわりの靭帯がピンと張る。骨どうしがかみ合って、関節そのものが締まった状態になる。
このとき膝は、筋肉の力をほとんど使わずに立っていられます。
では、膝がわずかでも曲がっていると、どうなるか。
靭帯はゆるみ、骨のかみ合いも浅くなる。関節としての安定が下がった状態です。
それでも立たないといけないので、体は別の方法で支えようとする。
そこで使われるのが、太ももの前とふくらはぎの筋肉。
本来は骨と靭帯が担当していた「支える」という仕事を、筋肉が肩代わりしているわけです。
膝のまわりが張る。重だるい。夕方になると疲れる。
その感じは、筋肉がサボっているときではなく、働きすぎているときに出ます。
ここが、次の話につながっていく。
なぜ、膝は伸びきらなくなるのか
膝を伸ばしきる場面が、日常にほとんどない
一日を思い返してみてください。
椅子に座る。車を運転する。デスクで作業する。ソファでくつろぐ。
このどれも、膝は曲がったままですよね。
歩いているときですら、膝が完全に伸びるのは一瞬だけ。
つまり今の生活には、膝をまっすぐ伸ばしきる時間そのものが、ほとんどないんです。
そこに痛みが加わると、事情がもう一段変わります。
膝は、少し曲げた位置が一番ラクな関節。関節の中の圧が下がるため、痛みが出ているときほど、無意識にこの位置を選びます。
かばうつもりがなくても、勝手にそうなる。
そして曲げたままの時間が続くと、膝の裏側の筋肉が縮んだまま戻りにくくなる。
半膜様筋(はんまくようきん)と腓腹筋(ひふくきん)。前者は太ももの裏の内側、後者はふくらはぎの筋肉で、どちらも膝の裏をまたいでいます。
ここが硬くなると、膝は物理的に伸びきれない。
もう一つ、見落とされやすい動きがあって。
膝は、伸びきる最後のところでわずかにねじれているんです。
すねの骨がほんの少し外向きに回り、それでロックがかかる。ネジを最後まで締めるような動き。
スクリューホームムーブメントと呼ばれています。
伸ばす動きの最後の30度あたりから、意識しなくても勝手に起きる回旋。
この最後のねじれが入らないと、見た目はまっすぐでも、膝は締まらない。
そこから連鎖して起きること
膝が締まらないまま体重がかかると、負担の行き先が変わります。
まず、太ももの前とふくらはぎが休めなくなる。
立っているあいだも、歩いているあいだも、ずっと軽く力が入りっぱなし。夕方に膝が重くなるのは、ここから来ていることがあります。
次に、お皿の下。
膝のお皿のすぐ下には、膝蓋下脂肪体(しつがいかしぼうたい)という柔らかい脂肪の組織があります。関節のクッションで、動きの隙間を埋める役目もある組織。
ここは、膝を伸ばすときにお皿の下で押さえつけられる。
そして膝を曲げていく途中、だいたい30度から60度のあたりで、圧が一番高くなります。
立ち上がりの最初。階段を下りる途中。ちょうどこの角度で痛みが出やすいのは、偶然ではないんです。
長いあいだ押さえつけられていると、脂肪体は周囲と癒着して動きが悪くなることがある。
そうなると、膝を伸ばすこと自体がさらにやりにくくなる。
伸びないから挟まれ、挟まれるからもっと伸びない、という形です。
そして、内側の痛み。
膝の内側には、鵞足(がそく)と呼ばれる3つの筋肉の付着部と、内側側副靭帯があります。どちらも、すねが外向きにねじれるのを止める役目を持っている。
さきほどの「最後のねじれ」が戻りきらず、すねが外を向いたままになっていると、どうなるか。
これらの組織は、一日じゅう引き伸ばされ続けることになります。
内側が痛むのに、内側そのものが傷んでいるとはかぎらない。 膝ではこれがよく起きているんです。
ここまでを一本につなげると、こうです。
膝が伸びきらない。だから締まらない。締まらない分を、筋肉と、脂肪体と、内側の組織が引き受けている。
痛みが出ている場所は、いちばん先に音を上げたところ。そういう見方もできます。
「曲がらない膝」と「伸びない膝」はちがう
膝の状態を気にするとき、多くの方が見るのは「曲がるかどうか」。
正座ができるかどうか。しゃがめるか。あぐらがかけるか。
分かりやすいですし、できなくなると生活で困りますよね。
ただ日常の負担という点では、伸びない方が影響は大きいんです。
理由は単純で、立っている時間と歩いている時間のほうが、しゃがんでいる時間よりずっと長いから。
膝が数度伸びきらないだけでも、その状態のまま一日ぶんの体重を支えることになります。
しかも、曲がらないのは自分で気づける。でも伸びないのは、まず気づけない。
まっすぐ伸ばしているつもりで、伸びていない。鏡で見ても分からない程度の差です。
もう一つ、よく耳にする説明があって。
「軟骨がすり減っているから痛い」というもの。
年齢とともに関節に変化が出ること自体は、めずらしいことではありません。
ただ、画像で分かる変化の程度と、感じている痛みの強さは、そのまま重ならないことがあると知られています。
だから「すり減っているから、もうどうしようもない」で止めなくていいと、僕は考えています。
自分で確かめられること
道具はいりません。痛みが出るところまではやらないでくださいね。
1. 膝の裏と床の隙間を見る
床に足を投げ出して座ります。両膝を伸ばして、力を抜く。
膝の裏と床のあいだに、どのくらい隙間があるでしょうか。
指が何本入るか、左右で見比べてみてください。片方だけ隙間が大きければ、その膝は伸びきっていないのかもしれません。
2. うつ伏せで、かかとの高さを見る
ベッドや布団にうつ伏せになって、膝から下を端から出します。
そのまま力を抜いて、脚をぶら下げてください。
左右のかかとの高さは、そろっているでしょうか。片方が高い位置で止まっているなら、その膝は伸びきる手前で止まっていることがある。
自分では見えない角度なので、家族に見てもらうか、スマホで撮ってみてください。
3. お皿の向きを見る
立って、鏡の前で足を肩幅に開きます。
左右のお皿が同じ方向を向いているか。片方だけ内側や外側を向いていないか。
向きがちがうときは、すねか太ももにねじれが残っていることがあります。
どれも、良い悪いを決めるためのものではなくて、左右の差に気づくためのものです。
家でできること(無理をしない範囲で)
やることは3つ。伸びきる位置を思い出す、日常で伸ばしきる時間をつくる、階段で股関節を使う。
膝裏を、押しつけてゆるめる
足を投げ出して座り、膝の下に丸めたタオルを置きます。
太ももの前に軽く力を入れて、膝の裏でタオルを床の方向へ押す。5秒押して、力を抜く。
これを10回ほど。膝を伸ばす筋肉に、伸びきる位置を思い出してもらう動きです。
立ったついでに、膝を伸ばしきる
さきほど書いたとおり、一日のうちで膝をまっすぐ伸ばしきる時間は、ほとんどありません。
だから、立ち上がったあとに一拍だけ足します。
かかとで床を押して、お皿の少し上あたりに軽く力を入れる。膝の裏がすっと伸びる感じが出たら、そこで3秒。
信号待ちでも、レンジの前でもかまいません。まとめてやるより、一日のあちこちに挟むほうが続きます。
階段は、おへそと膝を近づけて上る
これは普段から患者さんにお伝えしていること。
階段を上るとき、膝が体より前に出ていると、太ももの前だけで体を持ち上げることになります。
おへそを膝に近づけるように、少し体を前へ倒す。お尻を後ろに引く感覚、と言ってもいいかもしれません。
こうすると股関節とお尻の筋肉が主役になり、膝にかかる力が減る。
上りきったときにお尻のあたりが張っていれば、うまく使えています。
下りるときは、もっと気をつけたいところ。
一段ずつ、お尻を後ろに引きながら下ろす。手すりがあれば遠慮なく使ってください。
急いで下りると、落ちてくる体重を膝の前だけで受け止めることになります。お皿の下にいちばん圧がかかる角度を、勢いよく通ることになるので。
痛みが強いときは、無理をせず専門機関にご相談ください。 押すと痛む、動かすと鋭く痛むというときは、いったん休めるほうが先です。
医療機関を考えた方がよいサイン
膝の痛みの中には、使い方だけでは説明がつかないものもあります。
次のようなときは、一度、整形外科で相談してみてください。
- 膝が途中で引っかかって、伸ばすことも曲げることもできなくなる
- ひねった、ぶつけたなど、はっきりしたきっかけのあとに腫れてきた
- 膝が熱をもっている。赤くなっている。じっとしていても痛む
- 発熱をともなっている
- 力が抜けて、膝が崩れるように感じることがある
- 夜、痛みで目が覚める
- 短い期間で、急に腫れが強くなった
脅かしたいわけではありません。
膝の痛みの多くは、ここまで書いてきたような積み重ねから起きています。
ただ、上のような形で出ているときは、それだけでは説明がつかないことがあって。
相談に行くときは、いつから/どの動きで痛むか/どのあたりが痛むかをメモしておくと話が早い。
階段の上りか下りか、立ち上がりか、歩きはじめか。動作の名前まで書けると、なお伝わりやすいです。
まとめ
長くなったので、まとめます。
膝は、最後まで伸びきったときに一番安定する関節でした。
伸びきる手前で止まっていると、骨と靭帯が担当していた仕事を、まわりの筋肉が肩代わりすることになる。
その負担は、太ももの前、ふくらはぎ、お皿の下の脂肪体、そして内側の組織へと流れていきます。
痛みが出ている場所と、原因になっている場所は、別のことがあるんです。
まずは今日、床に座って両膝を伸ばして、膝の裏と床の隙間を左右で見比べてみてください。
そこに差があるなら、膝はまだ、伸びきっていないのかもしれません。


