しゃがむと、かかとが浮く。
和式のトイレがつらい。子どもと同じ目線でしゃがめない。
そういえば正座も苦手だし、階段を下りるときは少し体を横に向けている。
もう歳やから硬いんやろ。だいたいそこで終わってしまう話だと思います。
先に結論から。
足首の硬さは、足首だけで終わりません。
体のいちばん下にある関節なので、動かない分は上のどこかが引き受ける。それだけの話なんです。
順番に見ていきますね。
「足首が硬い」とき、体で何が起きている状態か
足首を曲げる、と言っても向きが2つある。
つま先を上げる向きと、下げる向き。
生活で効いてくるのは、つま先を上げるほう。背屈(はいくつ)と呼ばれる動きです。
しゃがむ。階段を下りる。歩いていて後ろ足に体重が残っているあいだ。ぜんぶこの向き。
で、足首の中身。
すねの骨の真下に、距骨(きょこつ)という骨があります。
この骨には、筋肉が一つもついていない。
体重がそのまま通り抜けていくだけの、中継ぎの骨なんです。
さて、足首を曲げるとき何が起きているか。
すねが、距骨の上を前へ倒れていく。
蝶番みたいにパタパタ動いているのではなくて、すねの骨が前に滑っていく動きなんですよね。
そしてこのとき、距骨のほうは後ろへ下がる。
前に倒れるものと、後ろへ下がるもの。両方そろって、はじめて足首は深く曲がる。
つまり足首が曲がるには、距骨が後ろへ下がれるだけの余地が要る。
ここが次の話につながっていきます。
なぜ、足首は曲がらなくなるのか
距骨が、後ろへ下がれない
ドアを思い浮かべてください。
開く先に空間がなければ、ドアは開きません。壁が近ければ、途中で止まる。
足首も同じで。すねが前に倒れるには、距骨の後ろに空間が要ります。
では距骨の後ろに何があるか。
アキレス腱。
そのアキレス腱と、かかとの骨のあいだには少しすき間があって。ここを埋めているのがアキレス前脂肪体という柔らかい組織です。
距骨が後ろへ下がるとき、この脂肪体が形を変えて場所をゆずる。
ところが硬くなっていると、そこをゆずれなくなる。
距骨は後ろに下がれない。すねも前に倒れきれない。足首は途中で止まります。
もう一つ、距骨の後ろを通っているものがあって。
長母趾屈筋(ちょうぼしくっきん)です。
ふくらはぎの奥から始まって、距骨の後ろを回り込み、足の裏を通って親指まで届く筋肉。親指を曲げる働きをしています。
距骨の後ろを通る筋肉は、これ一本だけ。
だからここが硬くなると、通り道に直接ふたをする形になるんですよね。
ふくらはぎをいくら伸ばしても足首が変わらない。そういうことが起こるのは、こういう事情があるからです。
そこから、連鎖して起きること
足首が途中で止まると、どうなるか。
しゃがもうとしても、すねが前に倒れきれない。
体は倒れない分をどこかで埋めます。
上半身を後ろに残す。
かかとが浮く。あるいは後ろにひっくり返りそうになるので、上体を深く前に折る。しゃがむときに思い当たる方もいると思います。
ここからが本題で。
重心が後ろに残ったまま動くと、体の後ろ側がずっと働き続けることになる。
まず、太ももの裏。後ろに倒れないよう引っぱり続ける。
次に、背中。上体を起こしておくために緊張する。
そして膝。
膝は足首と股関節にはさまれた関節です。下からのねじれと、上からの荷重。どちらも受け取る位置にいます。
足首が前に倒れない状態でしゃがんだり階段を下りたりすると、その分の角度を膝が引き受けることになる。
足首が動かない分、膝が余計に働く。
足首の記事なのに膝と背中が出てくるのは、こういうつながりがあるからなんです。
ねじれも上がっていきます。
足首が前に倒れられないと、体は横から逃がそうとする。足の内側を沈めて、外側を持ち上げる。
すると、すねごと外にねじれる。そのねじれは膝に伝わって、膝は外を向く方向に回ります。
蹴り出すときにかかとが内へ入る。つま先が外を向いて歩いている。そういう形で出てくることがあって。
痛みが出るのは、いちばん先に音を上げたところ。それが足首とはかぎりません。
「ふくらはぎが硬いだけ」とよく混同される
足首が硬いと言うと、まず出てくるのがアキレス腱伸ばし。
間違いではありません。ふくらはぎはかかとを引き上げる方向に働くので、硬ければ足首は曲がりにくくなる。
ただ、これだけでは説明がつかないことがあって。
毎日伸ばしているのに、変わらない。
心当たりのある方は多いと思います。
理由はさっきの話にあります。伸ばしているのは、ふくらはぎの表面なんですよね。
距骨の後ろでふたをしているのは、脂肪体と、その奥を通る長母趾屈筋。表面を伸ばしても、そこには届かない。
もう一つ、順番の問題もあって。
座ったまま足首を回しても、距骨は後ろへ下がりません。距骨が動くのは、体重がかかって、すねが前に倒れていくときだからです。
やわらかくするより、通り道を空けてから体重をかけて動かす。この並びになります。
なお、柔らかければいいのかというと、そうでもない。足首は歩くたびに体重を受け止める場所なので、支える力とセットで考えるところです。
自分で確かめられること
何かを判断するためのものではありません。今の状態を知る目安として見てください。
まず、壁を使うやり方。
壁の前に立って、片足を前に出します。つま先を壁から指2〜3本ぶん離して、床につけたまま。
かかとを床につけたまま、その足の膝を、まっすぐ壁に向かって近づけていく。
膝は壁につきますか。
かかとが浮いてしまう。あるいは膝が壁に届かない。そういうときは、足首が前に倒れきれていないのかもしれません。
左右でくらべてみてください。 片方だけ届かない、という形でよく出ます。
次に、しゃがんでみる。
足を肩幅に開いて、かかとをつけたまましゃがみます。
かかとが浮きますか。後ろに倒れそうになりますか。
倒れそうになるなら、重心が後ろに残っているサイン。
もう一つ。
靴の裏を見てみてください。
左右で減り方が違いませんか。外側だけが極端に減っている、片方だけ早く減る。そういうときは、足のつき方に左右差があることがあります。
どれも良い悪いを決めるものではなくて、左右の差に気づくためのものです。
家でできること(無理をしない範囲で)
やることは3つ。通り道を空ける、体重をかけて動かす、親指で押せるようにする。
まず、アキレス腱の前を空ける。
椅子に座って、足を床につけます。アキレス腱の両わきの、少しへこんだところ。かかとの上あたりです。
そこに親指と人差し指を軽く当てて、上下にゆっくり動かす。押し込まないでください。皮膚ごと動かす程度で十分です。
20秒ほど。ここが距骨の通り道になります。
次に、体重をかけて動かす。
さっきの壁の姿勢に戻ります。かかとを床につけたまま、膝を壁へ近づけて、戻す。
これを10回ほど、ゆっくり。
膝を、足の人差し指の方向へまっすぐ出すのがポイントです。内側に入ると、膝でごまかす形になるので。
痛みが出る手前で止めてください。
最後に、親指。
普段からお伝えしていることですが、足の指は「握る」より「押せる」ほうが大事なんです。
床に足を置いて、親指の腹で床を押す。ほかの指は浮かせず、そのまま。5秒押して、力を抜く。10回ほど。
親指が床を押せるようになると、蹴り出すときに足の内側を通れるようになります。さっきの「外へ逃げる」動きが減る。
なお、痛みが強いときや腫れがあるときは、無理をせず専門機関にご相談ください。
医療機関を考えた方がよいサイン
足首の硬さとして感じていても、別のことが関係している場合があります。
次のようなときは、一度、整形外科で相談してみてください。
- ひねったあと、足首に体重をかけられない。骨のでっぱりを押すと鋭く痛む
- 足首が腫れている。熱をもっている。赤くなっている
- じっとしていても痛む。夜、痛みで目が覚める
- 足の裏や足の指にしびれがある。感覚が鈍い
- つま先が上がらない。歩いていてつまずくことが増えた
- 急に、片方の足首や足の甲だけが腫れてきた
- 発熱をともなっている
脅かしたいわけではありません。
足首の硬さの多くは、ここまで書いてきたような積み重ねから起きています。
ただ、上のような形で出ているときは、それだけでは説明がつかないことがあって。
相談に行くときは、いつから/どの動きで/どのあたりがをメモして持っていくと話が早い。
しゃがんだときなのか、階段を下りるときなのか、歩きはじめなのか。動作の名前まで書けると、なお伝わりやすいです。
まとめ
長くなったので、まとめます。
足首が曲がるとき、すねは距骨の上を前へ倒れて、距骨は後ろへ下がる。後ろに下がる余地がないと、前には倒れられない。
ふたになっていたのは、ふくらはぎの表面ではありません。アキレス腱の前の脂肪体と、距骨の後ろを通る長母趾屈筋でした。
足首が止まると、重心は後ろに残る。その分を太ももの裏と、背中と、膝が引き受けることになります。
やることは、通り道を空ける、体重をかけて動かす、親指で押せるようにする。この3つ。
まずは今日、壁の前に立って、膝が壁につくかどうかを左右で見くらべてみてください。
そこに差があるなら、足首はまだ前に倒れきれていないのかもしれません。


