肩がこって、揉んでもらう。その日はたしかに軽くなる。

でも、2〜3日したら元に戻っていませんか。

長く付き合っている方ほど、この繰り返しに心当たりがあると思います。もう体質なんやろな、とあきらめかけている方もいるかもしれません。

この記事では、デスクワークの肩こりが休んでも戻ってしまう理由を、体の構造から説明します。

先に結論だけお伝えします。

こっている場所と、原因になっている場所が、別のことがあるんです。

こっている側は、実は「引っぱられている側」。だから、そこだけをゆるめても戻ってしまう。

順番に見ていきますね。

その肩こりは、体で何が起きている状態か

「こり」って、そもそも何なのか。

あらためて聞かれると、説明しにくいですよね。

一般的には、筋肉が縮んだまま戻りにくくなっている状態を指します。ずっと力を入れっぱなしにしているような感じです。

肩こりで多くの方が「ここです」と指されるのは、首の付け根から肩にかけての、盛り上がった部分。

僧帽筋(そうぼうきん)の上部という筋肉です。

首の後ろから肩、背中の上半分までを覆っている大きな筋肉で、肩をすくめる動きや、腕の重さを支える働きをしています。

ここが張る。押すと痛い。だから、ここをゆるめてもらう。

自然な流れだと思います。僕も患者さんから「ここをお願いします」と言われることが一番多い場所です。

ただ、ここで一つ確認しておきたいことがあって。

張っている筋肉が、いつも「縮んでいる」とはかぎらないんです。

引き伸ばされたまま、耐えるように張っていることもあります。

この違いが、次の話につながっていきます。

なぜ、休んでも戻るのか

腕が体の前にある時間が長いと、起きること

パソコンでもスマホでも、作業しているときの腕の位置を思い浮かべてみてください。

体の前にありますよね。

キーボードを打つ。マウスを動かす。スマホを持つ。どれも、腕を前に出したままの姿勢です。

このとき縮んでいるのが、小胸筋(しょうきょうきん)という筋肉です。

鎖骨の少し下から肋骨に向かって斜めに張っている、手のひらくらいの小さな筋肉。ここが縮むと、肩が前に引き込まれます。

胸の前から、肩甲骨を引っぱっているような形です。

一日中この姿勢が続くと、小胸筋は縮んだままの状態に慣れていきます。

そうすると、どうなるか。

肩甲骨の位置が、前にずれたまま落ち着きます。

ここからが本題です。

肩甲骨が前に出ると、そこについている僧帽筋の上部は、後ろから引き伸ばされる格好になります。

引き伸ばされた筋肉は、そのままでは頭や腕の重さを支えられません。だから、伸ばされながら力を入れ続けることになる。

これが、「張っているのに、縮んでいるわけではない」状態です。

揉んでもらうと、その場では楽になります。張っていた筋肉が一時的にゆるむからです。

でも、肩甲骨を前に引っぱっている小胸筋は、縮んだまま残っています。

引っぱる力が残っていれば、肩甲骨はまた前に戻る。僧帽筋もまた、引き伸ばされて張る。

2〜3日で元に戻るのは、このためです。

そこから、呼吸に連鎖していきます

肩の話をしているのに呼吸が出てくるのは、同じ肋骨についているからです。

小胸筋がついている先は、肋骨。

そして肋骨は、呼吸のたびに動きます。息を吸うと上がって広がり、吐くと下がる。

つまり小胸筋は、肩を動かす筋肉であると同時に、呼吸を助ける筋肉でもあるんです。

首の横を通る斜角筋(しゃかくきん)も同じです。首の骨から一番上の肋骨につながっていて、息を吸うときに肋骨を引き上げます。

ただ、本来の呼吸の主役は、この2つではありません。

横隔膜(おうかくまく)です。

肋骨の下にドームのような形で張っている、膜状の筋肉。これが下に下がることで胸のなかに空間ができて、肺に空気が入ります。

小胸筋や斜角筋は、あくまで補助です。

ここで、姿勢の話に戻ります。

前かがみになると、お腹の側が圧迫されます。そうすると、横隔膜は下に下がりにくくなる。

主役が動きにくくなったぶんを、誰かが引き受けることになります。

それが、肋骨を上から引き上げる小胸筋や斜角筋です。補助のはずだった筋肉が、常時かり出される。

胸の前がすぼまって肋骨自体も広がりにくいので、深くは吸えません。浅い呼吸を、回数でおぎなうことになります。

呼吸は、一日におよそ2万回といわれています。

その一回ごとに、小胸筋や斜角筋が動員される。

休んでいるつもりの時間にも、これらの筋肉は働き続けているわけです。

肩をゆるめても、夜のあいだも呼吸は続きます。

「休んでも戻る」の、もう一つの理由がここにあります。

「血行が悪いだけ」とよく混同される

肩こりの説明として、よく聞くのが「血行が悪いから」という話です。

間違いではありません。筋肉が張り続けていれば、その中を通る血管は圧迫されます。流れは悪くなります。

ただ、順番が逆になっていることがあって。

血行が悪いからこるのではなく、こっている状態が続くから流れが悪くなる、という並びです。

温めると楽になるのは本当です。血流が増えて、筋肉はゆるみやすくなります。

でも、翌日にはまた張っている。

温めることで変わるのは、そのときの状態だからです。肩甲骨の位置や呼吸の浅さは、温めても変わりません。

もう一つよく聞くのが、「筋力が足りないから」という説明です。

これも一面では合っています。支える力が足りなければ、姿勢は崩れやすくなります。

ただ、縮んで固まっている筋肉がある状態のまま鍛えると、その固まりを抱えたまま力をつけることになります。

順番としては、位置関係を戻すほうが先です。

自分で確かめられること

いま肩甲骨がどのあたりにあるか、簡単に確かめる方法があります。

何かを判断するためのものではありません。今の状態を知る目安として見てください。

壁に背中をつけて、立ってみましょう。

かかと、お尻、背中を壁につけます。そのまま腕を体の横に下ろして、手の甲を壁につけてみてください。

手の甲が、自然に壁につきますか。

つかない。もしくは、肩を無理に後ろへ引かないとつかない。

そういうときは、肩が前に出た位置で落ち着いている可能性があります。

もう一つ。

鎖骨の下から指2本ぶんくらい下がったあたりを、指の腹で軽く押してみてください。脇に近い側です。

小胸筋があるあたりになります。

反対側とくらべて、押したときの感じが違う。あるいは、肩のほうまで響くような感じがある。

そういうときは、そこが縮んでいることがあります。

強く押さないでください。確かめるだけで十分です。

家でできること(無理をしない範囲で)

やることは3つです。ゆるめる、位置を戻す、呼吸を落とす。この順番でやります。

まずは、胸の前から。

壁の角やドアの枠に、手をかけてください。ひじを軽く曲げて、肩の高さくらいに置きます。

そのまま、体を反対側にゆっくり向けます。

胸の前が伸びる感じが出たら、そこで止めて、20秒ほど呼吸をしながら待ちます。痛みが出る手前で止めてください。

次に、肩甲骨の位置です。

肩を後ろに引くのではなく、下に下げます。

肩をすくめて、数秒そのまま。ストンと落とす。これを3回ほど。

寄せようとしなくて大丈夫です。下がるだけで、肩甲骨の位置は変わります。

最後に、呼吸です。

椅子に座って、両手を下のあばら骨のあたりに当てます。

そこが横に広がるように、鼻から息を吸ってください。肩が上がらないように気をつけながら。

吐くときは、吸うときの倍くらいの時間をかけて、ゆっくりと。

5回で十分です。

一日に何度もやるより、仕事の合間に1回ずつ挟むほうが続きます。

なお、痛みが強いときやしびれがあるときは、無理をせず専門機関にご相談ください。

医療機関を考えた方がよいサイン

肩こりとして感じていても、別のことが関係している場合があります。

次のようなときは、一度医療機関で診てもらうことをおすすめします。

  • 腕や手にしびれがある。指先の感覚が鈍い
  • 力が入りにくい。物を落とすことが増えた
  • 安静にしていても強く痛む。夜、痛みで目が覚める
  • 頭痛といっしょに、吐き気やめまいがある
  • 発熱をともなっている
  • ぶつけた、転んだあとから始まった

不安にさせたいわけではありません。

肩こりの多くは、姿勢や使い方の積み重ねで起きています。

ただ、上のような形で出ているときは、それだけでは説明がつかないことがあって。

判断は医療機関でしてもらうのが確実です。まず受診して、そのうえで体の使い方を整えていく。その順番が安心だと思います。

まとめ

長くなったので、まとめます。

デスクワークの肩こりが休んでも戻るのは、こっている場所と原因になっている場所が別だからです。

張っている僧帽筋は、引き伸ばされている側。前から引っぱっている小胸筋が縮んだままなら、ゆるめてもまた戻ります。

そしてその小胸筋は、呼吸にも関わっています。だから、休んでいるあいだも働き続けます。

やることは、ゆるめる、位置を戻す、呼吸を落とす。この3つでした。

すぐには変わりません。積み重ねでできた状態なので、戻るのにも時間がかかります。

まずは今日、壁で肩甲骨の位置を確かめるところからやってみてください。