太衝(たいしょう)|気持ちの“つまり”を流すツボの力【鍼灸師が徹底解説】

こんな症状続いていませんか?
- 最近、イライラしやすくなった気がする
- 人の言葉に過敏に反応して、気持ちの浮き沈みが激しい
- 生理前になると、お腹が張って痛い・胸が苦しい
- 緊張すると、こめかみや目の奥がズキズキする
- 些細なことで怒ってしまい、後から自己嫌悪になる
- 不安と怒りが混ざったような気持ちが、うまく言葉にならない
こうした不調、実は“気の巡り”が関係しているかもしれません。
東洋医学では、「気・血・水」がバランスよく巡ることで心と体の調子が整うと考えます。
その中でも“気”は、感情と深くつながるエネルギー。特に、気の流れが乱れやすいのが「肝経(かんけい)」という経絡です。
今回ご紹介する「太衝(たいしょう)」は、その肝経を代表するツボのひとつ。
ストレスや怒りで滞った気の流れを整え、心身をスッと軽くしてくれる力があります。
この記事では、そんな太衝の位置や働き、臨床での活用まで、丁寧にお伝えしていきます。
基本情報|太衝(たいしょう)の位置・所属経絡
ツボの位置と取り方
足の甲、第1・第2中足骨の間(親指と人差し指の骨のあいだ)にあります。
中足骨の間を足首方向にたどっていき、骨の接合部(V字に交わるあたり)にあるくぼみが太衝の取穴点です。
▶ 正確な場所を見つけるコツ:
- 指の腹で骨と骨の間をたどると「ズン」と響く場所があり、そこが太衝です。
- 脈拍を感じる方も多く、それはこの部位が動脈の近くに位置しているためです。
所属経絡:足の厥陰肝経(あしのけついん・かんけい)
肝経は、足の親指から始まり、足の甲・内くるぶし・脚の内側を通って、体幹〜胸部〜目〜頭頂へと上がる経絡です。
「肝」のはたらきを支えるルートであり、主に気の流れ・血の貯蔵・感情の調整に関わるとされます。
ツボの分類
【1】原穴(げんけつ)
太衝は肝経の原穴です。
原穴とは、その臓腑の“生命エネルギー”が集まる最も重要なポイントであり、肝の働き(気・血・感情)を直接調整する窓口のようなツボです。
▶ たとえば:
- 肝の不調(イライラ、月経不順、目のかすみ)に対して
- ダイレクトに「肝の力を調整する」ツボとして活用されます
【2】兪木穴(ゆもくけつ)
五行理論に基づく分類では、太衝は肝経における“木”の性質をもつ兪穴です。
肝=木の臓であり、太衝もまた“木”の属性を持つことから、肝の本質を表すツボともいえます。
▶ 木の性質とは?
- のびやかに広がる、成長、発散、計画、感情の動き
- スムーズな「めぐり」を担う役割
このため、太衝は気滞(気が詰まった状態)をほどく、流れを回復させる働きに非常に優れています。
【3】五要穴のひとつ:肝経の「五兪穴」中の“兪木穴”
肝経には井・栄・兪・経・合という5つのステップ(五兪穴)がありますが、
その中でも太衝は「兪木穴」にあたり、エネルギーが活性化されやすい重要な通過点となります。
経絡・東洋医学的な意味|肝経と太衝のつながり
東洋医学では、私たちの体には「経絡」と呼ばれるエネルギーの通り道が全身に張り巡らされており、そのなかで「肝経」は、気や血の巡り、そして感情のバランスを司る、とても重要な経絡とされています。
肝経の流れとつながる場所
肝経は、足の親指の外側からはじまり、足の甲、内くるぶしの前方を通り、すね・太ももの内側を上昇して、下腹部〜胸部〜脇腹を巡ります。
その途中にある代表的なツボが「太衝(たいしょう)」です。
- 足の甲にある太衝は、肝経の気が最も集まりやすい“要所”であり、
- 肝経が身体の中心へと入っていく“入り口”のような位置づけでもあります。
つまり太衝は、肝のエネルギーが全身へと広がるための「関所」あるいは「扉」のような役割を担っているのです。
肝とはどんな臓なのか?
東洋医学でいう「肝」は、西洋医学でいう肝臓と重なる部分もありますが、もっと広く、感情や自律神経、血流や代謝の調整に深く関わっています。
肝の主なはたらきには、以下のようなものがあります:
- 疏泄(そせつ)作用:気の流れや感情をスムーズに保つ
- 蔵血(ぞうけつ)作用:血液をためて、必要なときに全身へ巡らせる
- 筋を主る(すじをつかさどる):筋肉や腱の柔軟性・目の働きにも影響する
この中でも特に「疏泄」の機能が乱れると――
気が滞ってイライラする、不安や怒りがうまく出せずに内にこもる、
月経が乱れる、眠りが浅い、頭がのぼせる……などの不調が現れます。
太衝と肝経の関係性
太衝は、肝経に属する「原穴」かつ「兪木穴(ゆもくけつ)」であり、肝のエネルギーそのものに直接働きかけられるツボです。
- 原穴としての役割:肝の“根本の気”とつながる、内臓レベルでの調整
- 兪木穴としての役割:木の性質(成長・発散・流れ)を活性化する
このため、太衝は以下のような肝のトラブルに対して非常に効果的です:
- 気の流れが滞っているとき(気滞)
- 怒りっぽさや感情の不安定さ
- 目の疲れ、筋肉の緊張
- 月経不順、PMS、不妊症の体質改善
太衝が効く理由|“気滞”と“肝の働き”の関係
私たちの体と心は、「気」というエネルギーの流れによって支えられています。
その気がスムーズに巡っていると、体は軽やかに動き、気持ちも自然と前向きになります。
けれど、ストレスがたまったり、感情を我慢し続けたり、生活のリズムが乱れたりすると――
「気滞(きたい)」と呼ばれる、気の流れの停滞が起こります。
この「気滞」は、特に“肝”という臓のはたらきに深く関係しており、
肝の経絡にある太衝は、まさにこの状態を整えるために最適なツボとされているのです。
「気滞」とは? 〜見えない“つまり”〜
後渓が属する小腸経は、手の小指から腕、肩、首、そして後頭部へと流れていく経絡です。
この流れが滞ると、肩の詰まり感や首の可動域制限、寝違えのような急性の痛みが起こりやすくなります。特に「背中の上のライン」にこりが出る方は、小腸経の気のめぐりが滞っている可能性が高いです。
気滞とは、文字通り「気が滞っている」状態。
本来は全身にスムーズに流れるはずの気が、どこかで“つっかえている”ことを意味します。
▶ たとえば、こんな状態が気滞のサインです:
- のどや胸が詰まる感じがする
- 深呼吸しても息がうまく入ってこない
- 何となくお腹が張る・ガスがたまる
- 肩や背中がいつもこっている
- イライラ、落ち込み、涙が出るなど感情の起伏が激しい
このような「身体のつまり」と「感情のつまり」は、実は同じルート上に起こっており、
それをコントロールしているのが「肝の疏泄(そせつ)」という働きなのです。
肝と気滞の関係 〜なぜ感情にも影響するのか?〜
東洋医学では、「肝」は気の流れを調節し、“こころ”と“からだ”のバランスを保つ役割があるとされています。
- 肝の気が伸びやかであれば、気分も明るく前向きで、内臓の動きもなめらか
- 肝の気が詰まれば、イライラ、不安、月経トラブル、筋のこわばりなどが出やすくなる
特にストレスを受けると、肝の気は上へ上へと昇っていきやすくなります。
その結果、
- 頭に熱がこもってのぼせる
- 目の奥が痛い・充血する
- こめかみがズキズキする(肝経が頭部を巡っているため)
といった、典型的な“肝気鬱結(かんきうっけつ)”のサインが現れるのです。
太衝が効く理由
太衝は、そんな肝の「気滞」を解きほぐすための“最重要ポイント”ともいえるツボです。
なぜなら、太衝は以下のような特性を併せ持つからです:
- 肝経の原穴 → 肝の“根本のエネルギー”に直接アクセス
- 肝経の兪木穴 → 木の性質である「のびやかさ・広がり」を象徴
- 足の甲という陽の経絡が集まる場所 → 気の出口となり、外への流れを促す
- 脈が浮きやすい部位 → 体表から気血の状態が感じられる
つまり太衝を使うことで、
内にこもった気を、足元から開放し、全身へ流していくサポートができるのです。
特に、肝気の滞りは女性に多く見られ、生理不順・PMS・更年期の情緒不安などとも深く関わっています。
他のツボとの組み合わせ
情緒不安定・イライラが強いタイプ
太衝 + 内関(ないかん)+ 神門(しんもん)
▷ 想定される体質・状態:
- ストレスが強く、怒りや焦りが抑えきれない
- 心臓がドキドキする、不安で胸が苦しい
- 「怒り+不安」「涙が出る+眠れない」など、感情が混在してつらい状態
▷ 各ツボの役割:
- 太衝(肝経)
→ 肝気の詰まりを解消し、気血の巡りをスムーズに整える
→ “怒りや焦燥”といった感情の抑制に効果的 - 内関(心包経・絡穴)
→ 胸郭の緊張・動悸・不安を鎮める
→ 心包を通じて“心の守り”を緩め、呼吸を深く導く - 神門(心経・原穴)
→ 心神を安定させ、不眠・焦燥感・精神疲労を落ち着かせる
→ 自律神経の調整にも有効
▷ 臨床的なポイント:
この組み合わせは、精神的ストレスが強く、感情の整理がつかないときにおすすめです。
とくに、感情の起伏が激しい人・気を遣いすぎる人・不安感が強い人に使用すると、「安心感」や「呼吸のしやすさ」が出てくるケースが多く見られます。
月経前症候群(PMS)・生理痛・月経不順
太衝 + 三陰交(さんいんこう)+ 血海(けっかい)
▷ 想定される体質・状態:
- 生理前になると胸が張る・怒りっぽくなる
- 月経痛が強く、血の塊が出る
- 月経周期が遅れがち/経血が少ない・どろっとしている
- 更年期やホルモン変動による情緒不安定
▷ 各ツボの役割:
- 太衝(肝経・原穴)
→ 肝血・肝気の調整。肝気鬱結からくる生理トラブルに対応
→ 肝は“血を蔵す”臓であり、月経周期に深く関与 - 三陰交(肝・脾・腎の交会穴)
→ 女性ホルモンバランス・骨盤内の血流・冷え・浮腫などを調整
→ 婦人科の万能穴 - 血海(脾経)
→ 血の滞り・瘀血(おけつ)を解消する「血の海」
→ 月経血の排出を促し、経血の質を整える
▷ 臨床的なポイント:
この組み合わせは、月経のたびに体調・気分が大きく乱れる方に用います。
「肝鬱化火」や「肝脾不和」などの弁証が当てはまり、婦人科系の症状に気滞・瘀血の所見があるときに非常に有効です
のぼせ・頭痛・目の充血
太衝 + 行間(こうかん)+ 百会(ひゃくえ)
▷ 想定される体質・状態:
- 頭に熱がこもってのぼせる・イライラする
- 目が赤い、しょぼしょぼする、目の奥が痛む
- こめかみ・頭頂部にズキズキするような頭痛
- 顔面紅潮、口が苦い、夢が多いなど“上熱”の症状
▷ 各ツボの役割:
- 太衝(肝経・原穴)
→ 肝の気を整え、のぼせの根本を鎮める(肝の調和) - 行間(肝経・榮火穴)
→ 肝火を瀉す(せっす=冷ます)作用が強い
→ イライラ・高ぶり・火照りに効果的 - 百会(督脈)
→ 気の上昇を整え、頭頂部の熱を鎮める
→ 自律神経と精神の安定を同時に支える
▷ 臨床的なポイント:
このパターンでは、肝のエネルギーが“上へ上へ”とのぼってしまっている状態=肝火上炎が中心です。
特にイライラ+頭痛、目のトラブル、不眠・のぼせが合併しているときに最適な組み合わせです。
食欲不振・便秘・下痢など
太衝 + 中脘(ちゅうかん)+ 合谷(ごうこく)
▷ 想定される体質・状態:
- 緊張するとお腹が張る/食べたくない
- ストレスで便秘や下痢を繰り返す
- 胃もたれ・ゲップ・ガスがたまりやすい
- 情緒と消化器のトラブルがセットで起こる
▷ 各ツボの役割:
- 太衝(肝経)
→ 肝気の滞りが脾胃を圧迫する「肝脾不和」のパターンに
→ 肝気の緩解により、消化器症状を間接的に調整 - 中脘(任脈・胃の募穴)
→ 胃の気の出入り口。消化不良や胃腸虚弱に効果的 - 合谷(大腸経・原穴)
→ 全身の気のめぐりを整え、便通や腹部の緊張を緩める
→ 気滞性の便秘・ストレス起因の消化器症状に
▷ 臨床的なポイント:
このセットは、「ストレスで胃腸の調子が乱れる方」や、「緊張するとお腹に出るタイプ」の患者さんに有効です。
肝気が脾胃に影響を及ぼしている“肝脾不和”の状態を、優しく解きほぐすように働きかけます。
東洋医学から見た“手の甲”の不思議
手の甲は「陽気」があふれる場所
東洋医学では、体の前面(手のひらや胸側)を「陰」、背面(手の甲や背中側)を「陽」と捉えます。
「陽」は動き・発散・外へのエネルギーを象徴する存在です。
手の甲には、小腸経・三焦経・心包経といった、陽のエネルギーを外に向かって流す経絡が集まっています。
これらの経絡は、それぞれ以下のような役割を担っています。
- 小腸経:首〜背中〜肩〜腕を通り、情報の整理や判断力(=感情を整理する力)にも関与
- 三焦経:耳や側頭部、肩を通り、水分代謝や自律神経の調節に働く
- 心包経:心を外側から守る経絡で、ストレス・不安・緊張の調整に役立つ
つまり手の甲には、感情・神経・循環・体液バランスに関わる重要な経絡が集中しているのです。
さらに後渓は、小腸経の中でも“気の動きが最も盛んなポイント=兪木穴”であり、
さらに全身の陽気を統括する「督脈」と交わる八脈交会穴という特別な場所でもあります。
感情の“放出口”としての役割
私たちは、怒ったときや焦ったとき、自然と「拳を握る」動作をします。
また、緊張しているときや不安なとき、無意識に手を強く握りしめたり、爪を立てたりすることがあります。
これは、東洋医学的に見ると「陽気が過剰になり、体の外へ放出しようとする本能的な動き」とも言えます。
とくに後渓はその「放出口の入口」にあたるツボ。
過剰に集まりすぎた気や感情のエネルギー(=気滞・心火・肝気鬱結)を、やさしく外へ流してくれる働きがあるのです。
まとめ|こころとからだの“つまり”を流すツボ
太衝(たいしょう)は、こころとからだの“気のつまり”をゆるめてくれるツボです。
- イライラやモヤモヤが続くとき
- 胸がつかえたような感じがあるとき
- 頭がのぼせるような感覚があるとき
- 月経やお腹の不調と、感情が重なってつらいとき
そんなときは、太衝の出番です。
足の甲にあるこのツボは、感情やエネルギーの流れを整える“出入り口”のような場所。
「詰まっていたものがスーッと流れていく」ような感覚を感じる人も多いです。
つらい症状の原因が「がんばりすぎた自分」にあるわけではありません。
気の流れがちょっと滞っているだけかもしれません。
太衝は、そんなあなたにそっと寄り添い、
「流れを取り戻すお手伝い」をしてくれるツボです。