太衝(たいしょう)|気持ちの“つまり”を流すツボの力【鍼灸師が徹底解説】

こんな症状続いていませんか?

  • 最近、イライラしやすくなった気がする
  • 人の言葉に過敏に反応して、気持ちの浮き沈みが激しい
  • 生理前になると、お腹が張って痛い・胸が苦しい
  • 緊張すると、こめかみや目の奥がズキズキする
  • 些細なことで怒ってしまい、後から自己嫌悪になる
  • 不安と怒りが混ざったような気持ちが、うまく言葉にならない

こうした不調、実は“気の巡り”が関係しているかもしれません。

東洋医学では、「気・血・水」がバランスよく巡ることで心と体の調子が整うと考えます。
その中でも“気”は、感情と深くつながるエネルギー。特に、気の流れが乱れやすいのが「肝経(かんけい)」という経絡です。

今回ご紹介する「太衝(たいしょう)」は、その肝経を代表するツボのひとつ。
ストレスや怒りで滞った気の流れを整え、心身をスッと軽くしてくれる力があります。

この記事では、そんな太衝の位置や働き、臨床での活用まで、丁寧にお伝えしていきます。

目次

基本情報|太衝(たいしょう)の位置・所属経絡

ツボの位置と取り方

足の甲、第1・第2中足骨の間(親指と人差し指の骨のあいだ)にあります。
中足骨の間を足首方向にたどっていき、骨の接合部(V字に交わるあたり)にあるくぼみが太衝の取穴点です。

所属経絡:足の厥陰肝経(あしのけついん・かんけい)

肝経は、足の親指から始まり、足の甲・内くるぶし・脚の内側を通って、体幹〜胸部〜目〜頭頂へと上がる経絡です。
「肝」のはたらきを支えるルートであり、主に気の流れ・血の貯蔵・感情の調整に関わるとされます。

ツボの分類

【1】原穴(げんけつ)

太衝は、「肝経」という経絡の“原穴(げんけつ)”という特別なツボです。

「原穴」とは、その臓器のエネルギーがいちばん集まってくる場所。
いわば、“臓腑とつながる玄関口”のようなイメージです。

太衝は「肝」とつながっているので、肝のはたらきをダイレクトに整えることができるツボです。

【2】兪木穴(ゆもくけつ)

兪木穴(ゆもくけつ)とは、その経絡に流れる“エネルギーの性質”を表す特別なツボのことです。

東洋医学では、すべてのツボに「木・火・土・金・水」という五つの性質(五行)のいずれかが割り当てられていて、
肝経にある「太衝(たいしょう)」は、“木”の性質を持つツボ=兪木穴に分類されます。

「木」は、春の木々のように、のびのびと広がり、成長し、めぐっていく力をあらわします。
だから太衝は、滞った気を流したり、感情のつっかえを解きほぐしたりする力にすぐれているのです。

肝はもともと「木の臓」。その肝経にある太衝が“木”のツボであることは、
まさに肝の本質とぴったり重なる、大切なポイントだといえるでしょう。

経絡・東洋医学的な意味|肝経と太衝のつながり

東洋医学では、私たちの体には「経絡」と呼ばれるエネルギーの通り道が全身に張り巡らされており、そのなかで「肝経」は、気や血の巡り、そして感情のバランスを司る、とても重要な経絡とされています。

肝経の流れとつながる場所

肝経は、足の親指の外側からはじまり、足の甲を通って、内くるぶしの前をすぎ、脚の内側を上にのぼっていく経絡です。
すねから太もも、そしてお腹の下の方や胸、脇腹へとつながっていきます。

その流れの途中にあるのが、太衝というツボ。
太衝は、足の甲にある肝経の重要なポイントで、肝のエネルギーが集まりやすい“交差点”のような場所です。

また、肝経が体の深い部分に入っていく“入り口”にもあたるため、
ここを整えることで、肝の気が全身へとスムーズに流れていくようサポートしてくれます。

つまり太衝は、肝のエネルギーを全身に届けるための「関所」や「扉」のような役割をしているのです。

太衝と肝経の関係性

太衝は、「肝経」という経絡にあるツボのひとつです。
その中でも特に重要なのが、太衝が「原穴」と「兪木穴」という2つの意味をもっていることです。

まず、「原穴」というのは、臓腑のエネルギーがいちばん集まりやすい場所。
太衝は肝の原穴なので、“肝のエネルギーの入り口”のような役割があります。
つまり、ここを整えることで、肝の働きをダイレクトにサポートできるのです。

また、「兪木穴」とは、そのツボが“木”の性質をもっているという意味です。
“木”は、のびのびと成長し、流れをつくり、発散する力を象徴します。
太衝はその木の性質を活かし、滞った気の流れをほどき、感情のこわばりや体の緊張をやわらげてくれるのです。

このような特徴から、太衝は以下のような状態にとてもよく使われます:
• イライラしやすい、気持ちが不安定
• 月経の乱れやPMS、不妊に関わる体質
• 目の疲れや筋肉のこわばり
• 「気が詰まっている」感じがあるとき

つまり太衝は、肝のトラブル全般にアプローチできる、まさに“肝経の代表ツボ”なのです。

太衝が効く理由|“気滞”と“肝の働き”の関係

私たちの心や体は、「気(き)」というエネルギーがスムーズに巡ることで、元気に動き、穏やかに過ごせるようになっています。
気持ちが前向きだったり、体が軽かったりするのも、気がうまく流れているからです。

でも、ストレスを感じたり、感情を我慢しすぎたり、生活のリズムが乱れたりすると、
この「気の流れ」が滞ってしまうことがあります。

この状態を、東洋医学では「気滞(きたい)」と呼びます。

「気滞」とは? 〜見えない“つまり”〜

後渓が属する小腸経は、手の小指から腕、肩、首、そして後頭部へと流れていく経絡です。
こ気滞とは、読んで字のごとく、気がどこかで“つまって”しまっている状態。
本来なら全身を自由に巡るはずの気が、通り道で立ち止まり、流れが悪くなってしまうのです。

たとえばこんな感覚、思い当たりませんか?
• のどや胸がつかえる感じがする
• 深呼吸してもうまく息が入ってこない
• お腹が張る・ガスがたまる感じがする
• 肩や背中がこってつらい
• イライラ・落ち込み・涙が出るなど感情が不安定になる

これらはすべて、体の「めぐり」が悪くなっているサイン。
そして、その“めぐり”をコントロールしているのが――肝(かん)という臓の働きなのです。

肝と気滞の関係 〜なぜ感情にも影響するのか?〜

東洋医学では、「肝(かん)」という臓が、体の“気”をスムーズに巡らせる役割を担っていると考えられています。
この肝の働きが整っていると、心も体も自然とのびやかに保たれます。

たとえば――
肝の気が順調に流れていると、気分は明るく、呼吸も深く、内臓もなめらかに動きます。
でも、ストレスや過労、我慢が続いて肝の気が詰まってくると、体も心も“こわばる”ような不調が出やすくなるのです。

感情の不調も、体の不調も「肝の気滞」が関係している

肝は、ただの臓器ではなく、感情や神経系ともつながっている“心と体の調整役”です。
そのため、肝の気が詰まると、イライラ、不安、落ち込み、怒りっぽさ――
さまざまな感情の揺れがあらわれやすくなります。

だからこそ、太衝のように肝の気を整えて流れをよくするツボが大切なのです。

太衝が効く理由

太衝(たいしょう)は、肝の気が詰まってしまったときに、流れを整えるための代表的なツボです。
特に「イライラ」「不安定な感情」「月経トラブル」など、ストレスや女性ホルモンに関係する不調にとてもよく使われます。

では、なぜ太衝がそこまで効果的なのでしょうか?

それは、太衝が“気のつまり”に効くためのいくつもの特徴を持っているからです。

太衝の4つの特性

  1. 肝経の「原穴(げんけつ)」
    太衝は、肝のエネルギーが集まる“本拠地”のような場所。
    ここにアプローチすると、肝の働きを直接整えることができます。
  2. 肝経の「兪木穴(ゆもくけつ)」
    “木”は、のびやかに広がり、流れをつくる自然の力。
    太衝はその木の性質を持っていて、詰まった気をやさしくほどいて流す働きがあります。
  3. 足の甲という“気の出口”にある
    足の甲は、陽の経絡が多く集まる場所。
    ここにある太衝は、内側にこもったエネルギーを外へ流し出す扉のような役割を果たします。
  4. “脈”が感じられるポイントでもある
    太衝のあたりでは、脈を感じやすく、気や血の流れが手に取るようにわかる場所。
    ここを整えることで、体全体の巡りも整っていきます。

こうした理由から、太衝は「気がこもって苦しい」「イライラが抑えられない」という状態に、
とてもよく使われてきました。

特に女性は、ホルモンの変化や感情の抑圧などで肝の気が滞りやすく、
生理不順・PMS・更年期の情緒不安定などに、太衝がとても効果的です。

他のツボとの組み合わせ

情緒不安定・イライラが強いタイプ

太衝 + 内関(ないかん)+ 神門(しんもん)

▷ 想定される体質・状態:

  • ストレスが強く、怒りや焦りが抑えきれない
  • 心臓がドキドキする、不安で胸が苦しい
  • 「怒り+不安」「涙が出る+眠れない」など、感情が混在してつらい状態

▷ 各ツボの役割:

  • 太衝(肝経)
     → 肝気の詰まりを解消し、気血の巡りをスムーズに整える
     → “怒りや焦燥”といった感情の抑制に効果的
  • 内関(心包経・絡穴)
     → 胸郭の緊張・動悸・不安を鎮める
     → 心包を通じて“心の守り”を緩め、呼吸を深く導く
  • 神門(心経・原穴)
     → 心神を安定させ、不眠・焦燥感・精神疲労を落ち着かせる
     → 自律神経の調整にも有効

▷ 臨床的なポイント:

この組み合わせは、精神的ストレスが強く、感情の整理がつかないときにおすすめです。
とくに、感情の起伏が激しい人・気を遣いすぎる人・不安感が強い人に使用すると、「安心感」や「呼吸のしやすさ」が出てくるケースが多く見られます。

月経前症候群(PMS)・生理痛・月経不順

太衝 + 三陰交(さんいんこう)+ 血海(けっかい)

▷ 想定される体質・状態:

  • 生理前になると胸が張る・怒りっぽくなる
  • 月経痛が強く、血の塊が出る
  • 月経周期が遅れがち/経血が少ない・どろっとしている
  • 更年期やホルモン変動による情緒不安定

▷ 各ツボの役割:

  • 太衝(肝経・原穴)
     → 肝血・肝気の調整。肝気鬱結からくる生理トラブルに対応
     → 肝は“血を蔵す”臓であり、月経周期に深く関与
  • 三陰交(肝・脾・腎の交会穴)
     → 女性ホルモンバランス・骨盤内の血流・冷え・浮腫などを調整
     → 婦人科の万能穴
  • 血海(脾経)
     → 血の滞り・瘀血(おけつ)を解消する「血の海」
     → 月経血の排出を促し、経血の質を整える

▷ 臨床的なポイント:

この組み合わせは、月経のたびに体調・気分が大きく乱れる方に用います。
「肝鬱化火」や「肝脾不和」などの弁証が当てはまり、婦人科系の症状に気滞・瘀血の所見があるときに非常に有効です

のぼせ・頭痛・目の充血

太衝 + 行間(こうかん)+ 百会(ひゃくえ)

▷ 想定される体質・状態:

  • 頭に熱がこもってのぼせる・イライラする
  • 目が赤い、しょぼしょぼする、目の奥が痛む
  • こめかみ・頭頂部にズキズキするような頭痛
  • 顔面紅潮、口が苦い、夢が多いなど“上熱”の症状

▷ 各ツボの役割:

  • 太衝(肝経・原穴)
     → 肝の気を整え、のぼせの根本を鎮める(肝の調和)
  • 行間(肝経・榮火穴)
     → 肝火を瀉す(せっす=冷ます)作用が強い
     → イライラ・高ぶり・火照りに効果的
  • 百会(督脈)
     → 気の上昇を整え、頭頂部の熱を鎮める
     → 自律神経と精神の安定を同時に支える

▷ 臨床的なポイント:

このパターンでは、肝のエネルギーが“上へ上へ”とのぼってしまっている状態=肝火上炎が中心です。
特にイライラ+頭痛、目のトラブル、不眠・のぼせが合併しているときに最適な組み合わせです。

食欲不振・便秘・下痢など

太衝 + 中脘(ちゅうかん)+ 合谷(ごうこく)

▷ 想定される体質・状態:

  • 緊張するとお腹が張る/食べたくない
  • ストレスで便秘や下痢を繰り返す
  • 胃もたれ・ゲップ・ガスがたまりやすい
  • 情緒と消化器のトラブルがセットで起こる

▷ 各ツボの役割:

  • 太衝(肝経)
     → 肝気の滞りが脾胃を圧迫する「肝脾不和」のパターンに
     → 肝気の緩解により、消化器症状を間接的に調整
  • 中脘(任脈・胃の募穴)
     → 胃の気の出入り口。消化不良や胃腸虚弱に効果的
  • 合谷(大腸経・原穴)
     → 全身の気のめぐりを整え、便通や腹部の緊張を緩める
     → 気滞性の便秘・ストレス起因の消化器症状に

▷ 臨床的なポイント:

このセットは、「ストレスで胃腸の調子が乱れる方」や、「緊張するとお腹に出るタイプ」の患者さんに有効です。
肝気が脾胃に影響を及ぼしている“肝脾不和”の状態を、優しく解きほぐすように働きかけます。

つまり手の甲には、感情・神経・循環・体液バランスに関わる重要な経絡が集中しているのです。

さらに後渓は、小腸経の中でも“気の動きが最も盛んなポイント=兪木穴”であり、
さらに全身の陽気を統括する「督脈」と交わる
八脈交会穴という特別な場所でもあります。

まとめ|こころとからだの“つまり”を流すツボ

太衝(たいしょう)は、こころとからだの“気のつまり”をゆるめてくれるツボです。

  • イライラやモヤモヤが続くとき
  • 胸がつかえたような感じがあるとき
  • 頭がのぼせるような感覚があるとき
  • 月経やお腹の不調と、感情が重なってつらいとき

そんなときは、太衝の出番です。

足の甲にあるこのツボは、感情やエネルギーの流れを整える“出入り口”のような場所
「詰まっていたものがスーッと流れていく」ような感覚を感じる人も多いです。

つらい症状の原因が「がんばりすぎた自分」にあるわけではありません。
気の流れがちょっと滞っているだけかもしれません。

太衝は、そんなあなたにそっと寄り添い、
「流れを取り戻すお手伝い」をしてくれるツボです。

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