後渓(こうけい)|心と体をつなぐツボの秘密【鍼灸師が徹底解説】

こんな症状続いていませんか?
- 朝起きたときに首がこわばる
- イライラや不安が続く
- 夢ばかり見て眠りが浅い
- 手が朝こわばって開きづらい
こうした「原因がはっきりしないけれど、調子が悪い」という状態――
東洋医学では、こうした“なんとなくの不調”こそ、体からの大切なサインととらえます。
もしかすると、その不調は
手の甲にある『後渓(こうけい)』というツボが関係しているかもしれません。
後渓は、小腸経という経絡に属するツボで、
首・肩・背中・頭・耳・心の状態にまで影響を与える、とても大切なポイントです。
この記事では、東洋医学と現代の視点から「後渓」の役割や活用法を、丁寧にわかりやすく解説していきます。
後渓(こうけい)とは?|ツボの基本情報
ツボの位置と正しい取り方
後渓は、小指の付け根、手の甲側にあるツボです。
手を軽く握ったとき、小指の下にできるシワの端——骨と骨の間にある、ややへこんだ部分が後渓の取り方のポイントになります。
▶ 正しい取り方のコツ:
- 手をリラックスさせて軽くグーの形にする
- 小指の付け根にできるシワをたどって、手の甲側のくぼみに親指をあてる
- 「少し押すとズンと響く感じ」があれば、そこが後渓です
この部分には、筋や神経が交差するデリケートなポイントがあり、ツボを押すことで、首や背中までふわっと反応を感じる方もいます。
所属する経絡
手の太陽小腸経(てのたいよう・しょうちょうけい)
小腸経は、手の小指から腕の外側、肩、首、後頭部、耳まわりへと流れていく経絡です。首・肩・背中・頭など、緊張やこわばりが出やすい場所に関わるルートであり、特に背中の上のこりや、寝違えのような急性の痛みとも関係が深い経絡です。
ツボの分類
兪木穴としての後渓
後渓は、小腸経における兪木穴(ゆもくけつ)に分類されます。五行で「小腸」は“火”の臓に属しますが、後渓はその中で「木」の性質を持つツボです。“木”には、のびやかさ・発散・成長・流れをつくる力という特徴があります。
つまり後渓は、小腸経において、気の流れを活性化させるスタート地点のような役割を果たしているのです。
このため、後渓は——
- 背中や肩がこわばって動かしづらいとき
- 朝、首を寝違えてしまったとき
- 緊張が続いて呼吸が浅くなっているとき
など、“こわばった流れをほどく”場面で非常に役立つツボとなります。
八脈交会穴としての後渓
さらに、後渓は「督脈(とくみゃく)」とつながる八脈交会穴でもあります。
八脈交会穴とは、正経十二経と奇経八脈をつなぐ“交差点”のようなツボ。後渓がつながっている「督脈」は、背骨に沿って体の後ろ側を走る大きなエネルギーラインで、脳・背中・神経系・自律神経などに深く関係するルートです。
つまり後渓は、
- 小腸経(肩・首・腕)を整えながら
- 督脈(背骨・脳・神経)にも働きかける
という、二重の効果を持った特別なツボなのです。
このため、後渓は——
- 首や背中の痛み(寝違え・ぎっくり首)
- のぼせ・自律神経の乱れ
- 情緒の不安定・夢が多い・眠りが浅い
といった、体と心の両方に働きかけたいときに非常に頼れるツボです。
小腸経と督脈|後渓が整える“内と外”のバランス
東洋医学では、私たちの体の中には「経絡」というエネルギーの通り道が流れていると考えられています。
その中のひとつ、「手の太陽小腸経」は、首・肩・背中・耳・後頭部といった“体の後ろ側”の不調と深く関わる経絡です。
小腸経の流れと体との関係
小腸経は、手の小指から始まり、手の甲・前腕・上腕を通って、肩・肩甲骨・首の側面・後頭部・耳まわりまでを巡る経絡です。
流れに沿ってみると、ちょうど「背中の上のライン」「首のつけ根」「こめかみ」「耳」といった、緊張やこりが出やすい場所ばかりを通っています。
そのため、小腸経に気の滞りが起こると、以下のような不調があらわれやすくなります:
- 首の動きが悪い(寝違え・むち打ち)
- 肩甲骨まわりのこり・背中の張り
- 後頭部の重さ・こめかみのズキズキ
- 耳鳴り・めまい・耳の詰まり感
こうした症状があるとき、小腸経を整えることで、背中から頭までの“後ろ側の流れ”をスムーズにすることができるのです。
小腸経と「心」のつながり|感情・精神との関係性
東洋医学では、臓腑は表裏のペアで働くとされています。
小腸は「腑(ふ)」にあたり、そのペアとなる「臓(ぞう)」が心(しん)です。
- 心:思考、精神活動、意識、睡眠、感情の中枢
- 小腸:飲食物の“清濁”を分け、必要なものだけを体に送る器官
この表裏関係は、身体だけでなく、心の“情報処理”にも例えられます。
▶ たとえば――
小腸は体にとって不要なものを選り分けるように、心も「この感情は受け止めよう」「これは手放そう」といった“感情の整理”をしています。
しかし、気の流れが滞るとこの「取捨選択のはたらき」がうまくいかなくなり、
- 感情がまとまらない
- イライラする
- モヤモヤが溜まる
- 心が疲れる・焦る・眠れない
といった状態になりやすいのです。
とくにストレスが多く、感情をため込みがちな人は、小腸経の気の流れを整えることで、心の整理も自然と整ってくることがあります。
督脈とのつながり
後渓(こうけい)は、手の甲にある小さなツボですが、
東洋医学では、「背骨を通る大きなエネルギーの流れ=督脈(とくみゃく)」とつながる、特別なツボとされています。
このつながりを持つツボは、「八脈交会穴(はちみゃくこうえけつ)」と呼ばれます。
後渓は、その中でも督脈と通じるツボとして、心身のバランスを整えるうえで非常に重要な役割を果たします。
一見すると、背骨とは離れている「手の甲」にある後渓。
ですが、このツボは「小腸経の起点」かつ「督脈へのスイッチ」でもあります。
八脈交会穴としての後渓を使うことで、
小腸経の流れを介して、体の奥深くを通る督脈にアプローチできるのです。
これはいわば、「手の甲から背骨の中心へ電源を入れるような操作」といえるかもしれません。
後渓が効く症状|東洋医学と現代医学からのアプローチ
東洋医学から見た適応
首・肩のコリ、寝違え、ぎっくり首
後渓が属する小腸経は、手の小指から腕、肩、首、そして後頭部へと流れていく経絡です。
この流れが滞ると、肩の詰まり感や首の可動域制限、寝違えのような急性の痛みが起こりやすくなります。特に「背中の上のライン」にこりが出る方は、小腸経の気のめぐりが滞っている可能性が高いです。
不安、不眠、夢が多い、情緒不安定
小腸経は「心(しん)」と表裏関係にあり、感情や精神の安定とも深く関わります。
後渓はその小腸経の“木穴”にあたり、気が盛んに動く場所。
気持ちが高ぶって眠れないとき、過剰に考えすぎて夢が多いときなどは、この気の動きを適度に整えて落ち着かせることがポイントです。
特に「自律神経が乱れている」と感じるような方に対して、後渓の刺激は有効です。
耳鳴り、目の疲れ、のぼせ、ほてり
後渓は「八脈交会穴」として督脈(背骨を通るエネルギーの大動脈)とつながる特別なツボです。
督脈は背中を上へと登り、頭頂部や目・耳・鼻の周囲を巡ります。
そのため、後渓を介して督脈にアプローチすることで、頭にのぼった“熱”を冷ますような効果が期待できます。
「のぼせてボーっとする」「目の奥が重い」「耳鳴りが気になる」といった状態に対して、後渓は頭部の熱と気のバランスを整えるサポートをしてくれます。
現代医学の視点から
尺骨神経や筋膜のつながり(手〜肩〜後頚部)
後渓は、解剖学的には第5中手骨と第5基節骨の関節部付近に位置し、小指の動きに関与する筋や腱、そしてその周囲を通る尺骨神経と関連があります。
尺骨神経は肘を通って上腕・肩・後頚部まで、筋膜や神経経路のつながりを通して“連鎖的に影響”を及ぼします。
そのため、後渓を刺激することで、肩甲帯や首筋、後頭部までの緊張を和らげる効果が期待されます。
姿勢の崩れ、自律神経の乱れ、眼精疲労との関連
現代人に多いのが、スマホ首や巻き肩などの不良姿勢です。これにより、後頚部(後頭下筋群)が緊張し、頭痛や自律神経の乱れ、目の疲れが起きやすくなります。
後渓は、背面の姿勢筋・深層筋膜ラインの起点のひとつとしても位置づけられ、そこを刺激することで、背筋をゆるめ、交感神経の過緊張を抑えることができます。
背中・頚椎周囲の神経への間接的なアプローチとしても有効
後渓が八脈交会穴としてつながる「督脈」は、脊髄を守る椎骨の流れに沿ったラインです。
このライン上には、自律神経や運動神経が数多く通っています。
直接的な神経刺激ではありませんが、後渓からこの“神経の本幹ルート”へ間接的に働きかけることができるため、慢性的な背部痛、神経疲労、慢性ストレスなどに用いられる理由もここにあります。
このように、後渓というツボは単なる「指の付け根の一点」ではなく、経絡・神経・筋膜・エネルギーの交差点として、からだ全体を整える深い意味を持っています。
臨床での活用|後渓と組み合わせたいツボ
後渓は、それ単体でも非常に多機能なツボですが、症状や体質に応じて他のツボと組み合わせることで、効果がより明確に現れます。
ここでは、実際の臨床でよく見られる3つのパターンをご紹介しながら、それぞれの組み合わせの意味と活用ポイントを詳しく解説します。
寝違え・首が回らない
後渓 + 肩井 + 天柱
● 症状の背景
寝違えや急性の首の痛みは、「気血の滞り(瘀血)」や「風寒の侵入」によって経絡が詰まることが原因とされます。とくに朝起きたときに突然首が動かなくなる場合は、寝ている間に体の防御力(衛気)が弱まっていた可能性も。
● ツボの組み合わせの意味
- 後渓:小腸経上のツボで、首・肩・後頭部の気を動かす。経絡を通して督脈にも影響するため、「首の可動性」に大きく関与。
- 肩井:肩甲骨上部の気が集まる場所。肩の詰まり・血流の滞りを解消しやすい。
- 天柱:後頭部にあるツボで、風の邪を散らす作用や、頚部の硬さをやわらげる効果がある。
▶ この組み合わせでは、外側・中央・深部から首肩のこわばりに多角的にアプローチできます。
急性の寝違えだけでなく、PC作業やスマホ疲れの蓄積による頚部の固さにも有効です。
眠りが浅い・夢ばかり見る
後渓 + 神門(しんもん)+ 百会(ひゃくえ)
● 症状の背景
夢を多く見る、夜中に目が覚める、不安で眠れない――。こうした不眠は、「心神(しんしん)が安まらない状態」として東洋医学ではとらえます。
特に気の高ぶり(心火上炎・肝陽上亢)が原因で、脳が休めない状態が続いていることが多いです。
● ツボの組み合わせの意味
- 後渓:小腸経から督脈へアプローチし、頭部の“熱”を下げる役割。自律神経系にも作用し、心身のリラックスを促します。
- 神門:心包経の原穴。心を鎮め、精神の安定を助ける代表的なツボ。不安や緊張、不眠の特効穴。
- 百会:頭頂部のツボ。多くの陽経が交わるポイントで、気の上昇をコントロールし、頭の興奮を鎮める働きがあります。
▶ この組み合わせでは、心身両面から「眠りの質」を底上げすることができます。
特に「寝てるのに疲れが取れない」「夢ばかり見て熟睡できない」という方に効果的です。
感情の起伏が激しい・更年期
後渓 + 内関(ないかん)+ 太衝(たいしょう)
● 症状の背景
更年期に見られる「イライラ」「焦燥感」「不安感」は、東洋医学的に“肝”や“心”の気が乱れている状態です。また、感情の波が大きい方や、自律神経が乱れやすい体質の方にもよくみられます。
● ツボの組み合わせの意味
- 後渓:感情を内にため込みやすい人に、“気の出口”として開放する役割。また、心火を冷ます役割も担います。
- 内関:心包経の絡穴であり、精神安定・不安・吐き気・動悸にも効果的なツボ。感情と消化機能の橋渡しをする働きも。
- 太衝:肝経の原穴。“怒り”や“焦り”といった感情のコントロールに優れたツボで、気滞を解消し、気の流れをなめらかにしてくれます。
▶ この組み合わせでは、「心と肝」の調整を通じて、情緒の安定を図ることができます。
「更年期症状の波がつらい方」「メンタルの浮き沈みが激しい方」に非常に有効です。
後渓の特徴
これらすべてに共通するのが、後渓が“めぐらせながら鎮める”という稀有な性質を持つことです。
- 気をめぐらせて、詰まりや滞りを解消し
- 上にのぼった熱や気をやわらげ
- 自律神経の興奮を落ち着かせる
だからこそ、「症状+後渓」という形で補助的に使うと、心身のバランスが整いやすくなるのです。
過剰に集まりすぎた気や感情のエネルギー(=気滞・心火・肝気鬱結)を、やさしく外へ流してくれる働きがあるのです。
まとめ|後渓は“心と体”をつなぐ交差点
後渓(こうけい)は、
- 首・肩・背中の不調
- 自律神経の乱れ
- 感情の高ぶりや不安
こうした“こころとからだの不調”のどちらにも寄り添ってくれるツボです。
「ただ押すだけでも、呼吸が深くなる感じがある」
「気づくと肩の力が抜けている」
そんな小さな変化が、あなたの毎日を少しずつ整えてくれるかもしれません。
不調は“体からのメッセージ”です。
無理にがんばるのではなく、まずはそっとケアすることから始めてみませんか?